鮒田式胃壁固定具徹底解説は医科器械出版社の発行する月刊医科器械誌(創刊50年)の別冊特集号として2008年に刊行されたものです。
本誌のすべてのコンテンツは医療従事者専用サイトから無償でダウンロードすることができます。鮒田式胃壁固定具の誕生秘話から胃壁固定具と経皮的胃壁腹壁固定法のQ&A、そしてアンケート調査の結果まで2008年当時の最新情報を1冊の小冊子にまとめたものです。是非、ダウンロードしてご笑覧いただければ幸いです。
鮒田昌貴インタビュー(鮒田式胃壁固定具徹底解説より抜粋)
鮒田先生はいつ経皮内視鏡的胃瘻造設術と出会われましたか?
内視鏡を使った胃瘻造設術に出合ったのは、もう20年以上前になります。赴任先の医局会で脳神経外科の先生が国際学会に発表する内視鏡を使った胃瘻造設術のビデオ発表を持ってきてくれたのを見たのがはじめてです。
それまでは、内視鏡を使った胃瘻造設術については知りませんでした。もともと外科医だったので、胃瘻造設する場合は、開腹して胃瘻を造っていましたから、ビデオを見て驚きました。開腹して胃瘻造設を行う場合には、閉腹をするときに小腸をもどすのに難渋しました。内視鏡を使った手術はそれにくらべると簡単にできます。それを見た瞬間に、これからはこの経皮内視鏡的胃瘻造設術が主流になってくると確信しました。いずれ自分でもこの術式を施行してみたいと思っていました。
その約1年後、ある病院に赴任しました。その病院は高齢者が多く、一般患者さんだけでなく寝たきりの患者さん、認知症の患者さん、交通事故の患者さんなど、自分で食事をすることが出来なくて長期にわたり経鼻胃管栄養を実施している患者さんたちがたくさんいらっしゃいました。これらの患者さんたちのために、ぜひ内視鏡を使った胃瘻造設術をやってみようと思いました。
しかし、当時はまだ内視鏡を使った胃瘻造設術の道具を扱っているメーカーはあまりありませんでした。当時、市販されていたものを使用してみましたが、それらの道具は残念ながら完成度の高いものではありませんでした。私が不慣れなせいもありましたが、改良点があると感じました。
用いた方法は、当時プッシュ法と呼ばれた方法です。体外からトロッカー針を挿入し、トロッカー針と同じ太さの筒状のシースを通してバルーン式のチューブを挿入しました。しかし、運悪く患者さんが咳をして筒が胃から抜けてしまい、開腹して胃瘻のチューブを挿入せざるをえなかったという経験が1例目でした。
術式は理にかなっていることは間違いないと思いましたが、初心者でも、安全にかつ確実に行える方式を考えなければいけないと思いました。トロッカー針を穿刺して、メインのチューブを挿入するまえに胃壁と腹壁を固定し、ゆっくりと落ち着いてメインのチューブを入れられる、そういう方式が必要だとすぐに気づきました。
そこで胃壁と腹壁を固定する胃壁固定具と銘うった道具を自分なりに考案しました。ただ、もともとは2箇所から別々に針を穿刺し、一方の穿刺針から糸を挿入して他方の穿刺針から糸を把持する器具を挿入して糸を把持する、そんな方法で行いました。
問題は両方の手がふさがることです。頭の中で考えると簡単な方法ですが、実際、胃の中の様子をモニターで見ながらですと、方向が自分の思った方向でなかったり、意外と針が変な方向を向いていたり、糸を把持するのに時間がかかったり、苦労しました。
なんとか目をつぶっていても、体外でやったのと変わらない状況を胃の中で作り出せないかと、改良に改良を加えて出来たのが今の胃壁固定具です。
鮒田式胃壁固定具が開発される以前には、胃壁と腹壁を固定する方法はなかったのですか?
ありました。ただ自分が胃壁固定具を考えているときにはまだ、胃壁と腹壁を固定する方法が既にあるということを知りませんでした。胃壁と腹壁を固定する必要があると考え、アイデアを出していく過程で、色々な文献を調べているうちに、既にひとつだけ胃壁と腹壁を固定する道具があるということを知りました。自分と同じ考えを持った人が既にいたのでした。経皮内視鏡的胃瘻造設術をするときの安全性や不便さについて考えている人がいた訳です。その道具はまだ日本に入っていませんでしたが、海外から取り寄せました。それはCOPE GASTROINTESTINAL SUTURE ANCHOR SETというものでした。実際に見たときには、考案された人はすばらしい人だと思い感動しました。自分が苦労していた状況が一気に解決してしまいました。
しかし、実際に使用してみたら、まだまだ改良点があると感じました。スーチャーアンカーというのは、コイル状の1センチくらいの金属の中央に糸がついていて、ガイドワイヤーで押していって針を出た瞬間に金属片がその重みでぶらさがるというものでした。胃の中に出た場合、針を抜き去るとコイル状の金属片が胃の中に残り、そこで糸をひっぱりあげると胃壁と腹壁が吊り上がってくるものでした。
そして、使用していくうちにまたしても苦い経験をすることになります。
ある時にスーチャーアンカーを使って、腹壁から胃壁に向かって穿刺しました。最初は、電子内視鏡ではなく、胃内腔がモニターに映し出される状況でなかったことが災いしました。胃内腔に入ったと思って、ガイドワイヤーを送り込んで行きましたが、胃がしぼんで落ち込んだために胃から穿刺針が抜け、胃内にあると思っていた金属片が腹腔内でぶらさがってしまいました。胃壁を吊り上げることが出来ない状態でそのまま腹腔内に残ってしまったので、コイル状の金属片を開腹して取り出さなければならなくなりました。
さらに成功し胃壁腹壁固定された後でも、時間がたってスーチャーアンカーをはずすときに、腹壁外に出ている糸を切ることで、胃壁を吊り上げていた金属片を胃内に落として下剤をつかって体外に出す、と当時の添付文書には書かれていましたが、下剤を使用しても金属片は胃内に残り体外に排出されませんでした。また、胃内腔から排出されても小腸や大腸に留まり腸管壁に刺さったり腸閉塞の原因になる可能性も考えられました。
胃壁と腹壁が固定されるであろう十分な日数を経ても、引っ張り具合によっては、金属片が胃の粘膜にくいこんで糸を切っても胃の中に落ちないことも多く経験しました。添付文書に書いてある通りにはいかない事例がでてきました。しかも、胃の中に落ちない場合は、もう一度内視鏡を挿入し、鉗子で取り除かなくてはいけません。これらの問題を解決するためには、スーチャーアンカーもまだまだ抜本的な改良が必要であると感じました。
その後、胃壁固定具を考案される訳ですが、最初から自ら考案しようと考えていましたか?
出来ることなら自分でつくりたいと思っていましたが、自分一人では限度があると思いました。他のアイデアですが、過去にメーカーに話をして断られた経験がありました。いきなりメーカーと共同開発するよりは、自分なりにイメージ通りに作るのが先だと思いました。
自分でどうにかしていかなくてはというのが出発点だったということですが、先生が最初の課題とされたことが、胃壁と腹壁を糸で通してしまおうというのが到達する目標として設定されていたのですか?
いいえ。胃壁と腹壁を固定するというのが大前提でしたが、胃壁と腹壁を固定するにはどんなものがいいのか、スーチャーアンカーを知る前は、色々試行錯誤をしましたよ。
例えば、忍者は、城壁を登るときに仕掛けられた「武者返し」に対してキリのようなもので壁に穴をあけます。そして、雨傘の金属部分のような形をしている道具を閉じたままその穴に差し込み、こちらからひっぱると中で開いてぶらさがります。そのような道具を応用できないかと思ったこともありました。
しかし、それは非常におおがかりなものになってしまう。実用化は無理ではないかと思いました。いくつかアイデアはありましたが、その後スーチャーアンカーを知ってしまい、それがあまりにもすばらしいアイデアだったので、逆に新しいアイデアが出てこなくなりました。
スーチャーアンカーはシンプルな考えのものでしたし、道具も変わったものではありませんでしたから、これにまさるものでないと意味がないと思いました。スーチャーアンカーを使って不便だったのは、どういうことかというと、金属が食い込んでしまってまた取らなくてはいけない。食い込んでしまってもかまわない。とらなくてもいい。手術の時に使用している腸と腸を縫合するような吸収性の糸を使ってコイルを作り出せばいい。金属のコイルと同じような太さで芯の強いものをつかったらいい。そう考えました。しかし、吸収性縫合糸を扱うメーカーにもあたりましたが、いい返事がもらえませんでした。そうなるとやはり発想を変えなくてはならない。
スーチャーアンカーから胃壁固定具へと仕組みに関する着想を脱却されたというのがすばらしいことだと思います。たぶん気持ち的に切り替えにご苦労があったと思われますが。
そうですね。最初、スーチャーアンカーのイメージが強かったため、なかなかそこから抜け出せなかったことは事実です。今までと同じような方式ではだめだ。思考を切り替えなければだめだ。そこでどうしたかというと、考えを原点に戻したのです。
やりたいことは胃壁と腹壁を固定させること。最も確実なのは胃壁と腹壁を縫合固定してしまえばいい。だから考案すべき道具は体外から、胃壁と腹壁を縫合固定できる機能をもったもの。
単純に腹壁外から胃内腔に向かって針をさして糸をだし、また別のところから針を刺してそこから糸を把持し、そのまま抜去すれば、縫合糸は胃壁と腹壁を貫通しているので縫合固定できる。
ところが実際にやってみたら、できたことはできたが、思ったよりも時間がかかる。時間がかかる理由としては、まずモニターに映し出された方向が常に変動すること。また、内視鏡を操作している先生との呼吸があわないと手術がスムーズに進まないこと。イメージ通りには出来ませんでした。
それでも2箇所から穿刺して、糸を胃壁と腹壁を貫通させて固定することには成功しました。この方法をもう少し進化させていけばいい。そう確信しました。
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